どうも、もちりんです。自己紹介にも書いた通り、もちりんは国家公務員として2年強、中央官庁に勤めた後、コンサルティング企業へ転職して今に至っております。一つの企業に退職まで30年以上勤めあげる前提なんて言うのは、今やもう昔の話。転職が当たり前の時代になっていることは言うまでもありません。そして公務員においてもそれは漏れなく当てはまるのでございます。
今回は公務員のスキルの汎用性について考えたいと思います。というのも、公務員時代、もちりんの周りにも転職を考えている人は若手から40代まで幅広くいました。そしてどの世代の人も口々に言うのが、
「民間に行きたいなら35歳までにいかないとな、、、」
というお決まりのフレーズです。大体みんな「35までに」って言うんです。逆に言えば、35歳以降に転職を試みることは難しくなる、転職できたとしてよりよいキャリアを形成することが難しくなる、ということです。「よりよいキャリア」ってなんだよ、というのはさておき、要するに35歳以降は転職大変だぞ、公務員続けといた方が無難だぞ、ということです。その心は、
「公務員は基本的に民間で使えるスキルが身に着かない。だからキャリアチェンジするのであれば、一からその業界・職種のスキルを身に着ける必要がある。そして、ぎりぎりミドル以下のポジションで採用してもらえる35歳前後がそのデッドラインだ」
というものです。実際、公務員の諸先輩方の話を伺っても状況はこれに非常に近いそうです。特に、35歳超えての転職活動きつい話はネット上にもいくつか見られましたし、知り合い通じて聞くこともよくありました。ですが、単純に疑問が湧くわけです。
「公務員の仕事だって大変じゃないわけじゃない。学生時代まではみっちり勉強してきたエリートくん/ちゃんたちが必死こいて、ブラックな労働環境を耐え抜き、非常に複雑な調整上業務を通じて国の政策立案を支えている。民間と比べてどれほど大変かなんて測りようがないけども、何かしら労働/人材市場でも評価される側面があっても良いのではないか」
上記の疑問のイメージは、中央官庁で働く役人たちをイメージしたもちりんの経験から捉えられる側面しか反映しておりません(公務員と言っても当然いろんな種類がありますので)。頭の使い方が民間と違う(ビジネス的な思考力を公務員は使わない)とはいえ、公務員だって頭を使うわけです(少なくとも政策立案の中枢を担う課長補佐とかになると)。そんな彼らの仕事がなぜここまで(35歳以降は転職が厳しいと言われるほど)労働市場の需要にマッチしないものとなっているのか。もちりん、気になってしょうがないのです。何ならある程度「公務員スキル」を持つ公務員がもう少し労働市場で評価されるような可能性はないのか、探りたいのです。
ということでもちりんなりに考えてみました。
まず公務員の転職が成功する確率が上がる(労働市場において公務員→企業への人材流動性が高まる)には下記のAとBのマッチングが高まる必要があるでしょう。
需要:民間企業が必要とするスキルA
供給:公務員が労働力として供給できるスキルB
転職確立の向上ためには本当はもっといろいろな要素があると思います。例えば報酬です。重要サイドの許容する報酬水準と、供給サイドの労働力が許容する報酬水準の差が問題になる場合もあるでしょう。他にも雇用形態(正社員か非正社員か)、勤務地、福利厚生(報酬に含むとも言える)など、細かくはたくさんありそうですが、今のところは公務員が気にする「公務員スキルの役立たなさ」が問題ですから、とりあえずスキルのことだけを考えておこうと思います。
「スキルAとスキルBが本当にマッチングしないのか」という問い(疑問)の考え方としては、次の2通りが一般的でしょう。
➀スキルAを想起して、公務員にも備わっているか考える
②スキルBを想起して、企業でも求められる能力を考える
そして「公務員のスキルは民間で役に立たない」理論は、
(1)民間企業の利益創出部門を想定して➀の考え方をする
(2)②を深堀して考えていない
ということなどが状況を後押ししていると考えられると思っています。
(1)については説明の必要がないでしょう。利益創出部門というと、営業、マーケティング、開発、製造、事業開発といったところかと思います。これら部門に必要な、主要なスキルを想定したところでさすがに公務員が身に着けているとは言いにくいでしょう。なぜなら公務員は利益の創出が仕事ではないからです。ですから企業の別の機能に焦点を当てて考えてみるということがもっと必要なのではないかと思われます。具体的にはコーポレート部門(経理、人事、法務、、、)、経営企画部門、研究開発部門といったところでしょう。特にコーポレート部門や経営企画部門における仕事は組織が存在すれば必ずと言ってよいほど必要な仕事だと思います。組織体制を構築し効率的かつ安定的なオペレーションを支えること、組織の目標を設定しそれに向けたマイルストーンを整理すること、これらはいずれも目標を持たねければならない組織にとって必要な仕事と言えるでしょう。当然、会社の利益創出を最終的な課題とする「組織」と、公共利益の増大を目的とする「組織」における命題の違いは随所にあるはずですが、「組織」に目を向けることは公務員の可能性を少しでも広げることに寄与するのではないかと思っているのです。(問題は、意外と公務員でも、利益創出部門といいますか、バリバリのフロント部門といいますか、そういったビジネスサイドへの転向を志す者がかなり多いと言うことだったりするのですが、、、かく言うもちりんも、その1人だったりして)
(2)は、公務員が供給できるスキルBをもっともっと深堀していこうという話です(それができたら苦労しないでしょ、、、)。心の声が漏れてしまったところですが、正直いま公務員の方々に聞いてどんなスキルがありますか?と聞いたら、みんな口をそろえてこう言います。
「多様なステークホルダーの調整能力」
政策立案には様々な関係者・団体が関わり、それぞれ違う意見を持っています。そんな関係者の合意を得られるように政策を立案し、実行していく、そのためのスキルとして「調整能力」は欠かせないですし、実際に経験知として身に着いているから多くの公務員が口にするのだと考えております。確かに調整能力は重要ですし、公務員の「調整能力」は特筆したものがあると思いますが、調整能力が民間のビジネスマンにもないかと言われると、そんなことはないと思われがちです。おそらく、基本的なビジネススキルと言いますか、コアコンピテンシーの1つとして公務員の「調整能力」もひとくくりにされてしまうのが実体に近いと言えるのではないでしょうか。しかし、この「調整能力」には民間企業以上に壮絶な政策立案過程で生じる合意形成に向けた努力が詰め込まれているはずです。そして、その壮絶さが発生する一番の原因が、「異なる利害」を抱えるステークホルダー(基本的には全国民)に対して、「一律に公平に適用される」政策・法律を創っていかないといけないと言う点にあるともちりんは考えます。弱者にお金を配ることでさえ異論が出るのです。頑張って働いている人の税金を無駄にするなという意見ですね。金融所得税を引き下げる政策に対しては予算を握る役所がそれに反対するはずです。国の財源を維持できないという意見が出るでしょう。そうした反対意見が出た時に、どのように説得していくのか。ただ単に我慢してくださいと、お願いするやり方は普通はしません。一見反対者にとって不利益に見えるような政策でも、「結果的に」「全体として」「巡り巡って」反対者の利益にもつながる、といったストーリーを語ることで反対意見を飲み込んでいくのです。若者支援の政策に反対する高齢者に対しては、若者の活動を活性化することで景気回復・経済全体の底上げにより福祉のための税収確保、高齢者支援の仕組み構築に従事する人たちの確保につながるというレトリックを持ち出すのです。
もちりんは上記のような非常に稚拙で簡単な例しか挙げられませんでしたが、なんとなく言いたいことが伝わってれば万々歳です。多様性に配慮した公平原則の適用という、根本的に矛盾した営みを公務員は迫られているのです。「公平」であることは一律のルールがあると言うことであり、「多様」な人々のうちの誰かにとっては不都合である可能性が高いわけです。それがルールメイキングの難しさであり、(面白いとすれば)醍醐味であるとも言えるでしょう。そうした矛盾した状況をいくつも潜り抜けてきたその手腕こそが公務員の武器であり「調整能力」ではないでしょうか。
ですがしかし、話を元に戻して、それが企業でどのように活きるのか、民間企業が直面するビジネス課題や組織の課題のストーリーの中でどのように位置づけられるのか、これらが語れることで初めてマッチングを生み出すことができます。(1)の「組織」の視点、(2)の「多様な社会に公平性を適用する矛盾への対応」の視点、この二つを組み合わせることで何か言えることがないか、もちりん引き続き営為検討を続けてまいりたいと思います。
それではまた~
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