TOB(Take-Over Bid)について

どうも、もちりんです。

今回は少しマニアックなテーマですが、TOB(Take-Over Bid)について、買付者側がどういった対応を求められるかをご紹介したいと思います。

TOBとは

定義

まずそもそも「TOBって何だよ」という方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明できればと思います。

TOBは上述の通り、Take-Over Bidの略で、日本語では「株式公開買い付け」と訳されます。
これはM&Aの手法の一つとして、日本では1971年に導入されました。

目的

TOBは、対象企業の経営権の取得もしくは子会社化を主な目的として実施され、買収企業側(公開買い付けを行う主体)は、買収したい企業の株式を保有する株主に対し、株式の売却を呼びかけます。

進み方

その際、主に以下の点を公告します。

  • 買付の期間
  • 買付の価格
  • 買付したい株式数

対象企業の株式を保有する株主のうち、売却を希望する株主は、通常の取引市場を介さず、TOB公告に記載された証券会社等を通じて株式の売却を行います(取引所外での取引)

ちなみに、対象企業の株式をどれだけ持っているかで、権利も異なり、どのような権利が付与されるかは会社法で定められています。

持ち株比率権限
1%~取締役会設置会社における株主総会の議案請求権
3%~株主総会の招集請求権、会計帳簿の閲覧及び謄写請求権
33.4%(1/3)~株主総会の特別決議を単独で否決する権限
50%(1/2)~株主総会の普通決議を単独で可決する権限
66.7%(2/3)~株主総会の特別決議を単独で可決する権限
100%完全子会社化
図1 持ち株比率と保有権限

所謂「経営権を握る」というのは、一般的に普通決議を単独で成立されることができる50%超の持ち分比率を指していると考えてください。

買い付け価格

取引所外で取引が行われる理由については、TOBに限らずですが、大量の買い注文が取引所内で行われると、市場内の反応が予想外に大きくなり、株価が急上昇する可能性があるためです。
株価が急上昇すると、当初予定していた価格で株式を買えなくなるリスクがありますよね。

ちなみに買い付け価格は通常、市場価格にプレミアム(30~40%程度が一般的)を乗せて設定されます。これは、売り手としては売却メリットが増しますし、買い手としても早く株式を集められるメリットがあるからです。

TOBの種類

TOBには友好的TOBと敵対的TOBがあります。名前の通り、前者は買収側の提案に被買収側が同意して行われるTOBを指し、後者は買収企業の提案を被買収企業が受け入れなかった場合のTOBを指します。

現在、日本国内で行われるTOBはほとんどが友好的ですが、企業同士の株式持合いの解消が増えたことや、日本的企業体質で割安判断される企業の発掘が増えた一時は、外資系を中心とした投資ファンドによる敵対的TOBが増加したこともあります。

メリットとデメリット

TOBには、買収側にも売却側にもメリット・デメリットありますが、以下はM&A総合研究所の記事をまとめたものになります。詳細は下記のページをご参照頂ければと思います。

買収側売却側
メリット1買収成立までのスケジュールが管理しやすい大きなリターンを得やすい
メリット2手間が少ない株価の変動に惑わされない
メリット3株価の変動に惑わされない
メリット4予定数の株式を取得できない場合はキャンセルできる
デメリット1抵抗勢力により損な取引をされる可能性がある売却後に損をしていることがある
デメリット2買い付けを公開する必要がある
TOBのメリットとデメリット

(出典)M&A総合研究所、TOB(株式公開買付)とは?メリットや株価影響を解説!わかりやすい事例20選!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所 (masouken.com)

TOBにおける買付者側が意識すべきこと

前置きが長くなってしましたが、ようやく本題です💦

あくまで個人的な感想ですが、買付者が留意すべき点は大きく12点に整理できると思います。

  1. 取得持分
  2. スクイーズアウト
  3. 実施時期
  4. 主要株主との事前交渉
  5. 上限・下限
  6. 価格
  7. 特別委員会
  8. 期間
  9. 米国居住者株主対応
  10. プロセスマネジメント
  11. ドキュメンテーション
  12. インサイダー取引規制

1.取得持分

TOBを実施する場合、投資ストラクチャーの検討が不可欠です。
具体的には、完全子会社化(100%)、連結子会社化(51%超)、それ以外で分けることが多いです。

2.スクイーズアウト

スクイーズアウトとは、同意を得ることなく少数株主を排除する手続きを指しています。詳しくは以下のサイトに解説を譲りますが、こうした手法は完全子会社化を目指す場合などにしばしば用いられます。これは、TOBにおいて全ての株式を買い集めることが難しいためです。

スクイーズアウト実行にあたっては、可決に必要な議決権比率、スケジュール、要件等について検討することが必要になります。

スクイーズアウトとは?少数株主の排除手法や手続きを解説【事例あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所 (masouken.com)

3.実施時期

TOBでは、非公表の重要事実に触れることも多く、それゆえインサイダー取引の危険性もあるため、他の投資家への適切な情報開示がTOB実施前に求められます

また、TOBの実施時期は、一般的に決算発表直後が望ましいとされています。

4.主要株主との事前交渉

対象会社に大株主がいる場合、そこと入念な交渉を事前に行い、応募契約を締結することで、TOB成立を盤石にできる可能性が格段に上がります。

5.上限・下限

上限については、連結子会社化案件の場合、①上限を設定して買付を行うか、②制限なく買付を行うかを検討する必要がある。これを決めるに際しては、各ステークホルダーの意向、投資規模、設定した場合の株主の応募可能性等を総合的に検討して設定を決めるべきです。

下限についても同様の事項を検討して決定します。

6.価格

目標買付数を達成するため、株主の投資簿価や主要株主の売却可能性を踏まえて総合的に判断することが必要です。価格設定に際して、以下を考慮することが多いです。

  • 各株主の保有する株式が売買された期間(理論値)の株価推移を分析し、その他株主の取得価格を把握した上でTOB価格を推定します。
  • プレミアムの中央値はおおよそ30~50%ですが、事前に保有する持分、目標とする取得持分によってプレミアムは上下します。
    • 一方で、TOBは制度上、他の買収者による対抗や、アクティビストによる株式取得も起きうるため、プレミアムはこれも踏まえて慎重に検討する必要があります。

7.特別委員会

完全子会社化案件の場合、公正性担保措置として、対象会社内に特別委員会が設置されます。買付者は、特別委員会に対して、TOB及び買付価格が対象会社の企業価値向上及び一般株主の利益に寄与することを示す必要があります。

8.期間

一般的には20営業日~60営業日とされており、目標買付数が多いと期間は長くなる傾向があります(完全子会社化の場合は、最短で30営業日程度)。

9.米国居住者株主対応

日本法に基づくTOBであっても、米国居住者株主比率が所定の割合を超えた場合、米国証券取引委員会(SEC)への登録届出書書類の提出が求められる可能性があります。

したがって、米国株主からの応募を受け付ける際には、本対応に留意する必要があります。

10.プロセスマネジメント

TOBの対象会社は上場会社であるため、ファイナンシャルアドバイザー(FA)、公開買付代理人(証券会社)、法務アドバイザー、税務アドバイザー等を起用するため、彼らとの密なコミュニケーションと適切なプロセス設計を行うことが不可欠です。

11.ドキュメンテーション

10.同様、TOBではで求められる複数の書類(ex.公開届出書)の作成が義務付けられていますので、各アドバイザー等と密に連携を取り、所定の書類を時間内に準備する必要があります。

12.インサイダー取引規制

インサイダー取引規制に抵触しないよう、情報管理、インサイダー保有者への誓約書、リーク報道対応を徹底しなければいけません。

また、東証からインサイダーに係る経緯報告書の提出を求められる場合もあり、ディール全般についての細かい記録が求められます(いつ、誰に、何を話したか等)。

最後に

如何でしたでしょうか。今回は、買付者がTOB時に留意すべき点について、定性的な側面を網羅的に解説しました。

次回は、オファー価格決定のプロセスについて、浮動株分析、PBR分析といった手法も紹介しながら解説したいと思います。

それではまた~

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